宮部みゆき『堪忍箱』

堪忍箱 (新潮文庫)

堪忍箱 (新潮文庫)

 2001年10月購入。6年7ヶ月の放置。宮部みゆきは家族の絆の崩壊と、そこから個々人が如何に再生するかを題材とすることが多い。そのテーマを現代ものでは『模倣犯』のように社会問題を絡めて描き、そして本書のような時代物では人情ものとして仕上げて見せる。
 自分を誘拐してほしいと言う子どもが登場する「かどかわし」や老夫婦と彼らの引き取った孤児たちの裏事情「お墓の下まで」、姉妹同然に育った二人の少女の運命の変転の対比「てんびんばかり」などは宮部の好んで描くところがまさに現れている好短編といえる。
 とはいえ全部が全部人情路線というわけではなく、例えば表題作は決して開けてはならない「堪忍箱」と、それに絡む因果に恐怖のスパイスをほどよく加えた物語に仕立てているし、命を狙われた男が用心棒として雇った浪人の肝の据わったようでどこか余裕のある言動、そしてオチまで用意されているという緊張と緩和が絶妙な「敵持ち」、な長屋の差配が死体で見つかったことから判明する住民の間でのさまざまな差配像「謀りごと」などユーモアセンスが発揮される作品もある。
 また、人情ものも泣かせに走れば読者をあからさまに泣かせることのできる設定であっても、物語自体と作者の距離を保った筆致で描かれているため、「泣ける」系のはなしであっても読後にくどさを感じることはない。読み心地はよく、総合的に見て出来のよい時代短編集だといえる。