松尾由美『いつもの道、ちがう角』

いつもの道、ちがう角 (光文社文庫)

いつもの道、ちがう角 (光文社文庫)

 2005年12月購入。2年5ヶ月の放置。本来あるべき姿から外れてしまったものをコレクションする男の話「琥珀の中の虫」、麻疹にかかってうなされる少年が幻視する世界「麻疹」、芸術家に潜む嫉妬心の一例から膨らむ妄想「恐ろしい絵」、愛犬を殺された女性が偏執的に犯人探しをする「厄介なティー・パーティー」、引っ越し先の近所で見た美少女の姿に執着する男の話「裏庭には」、カルト臭の集まりで息子と逸れてしまう母親「窪地公園で」、普段使わない通りにある美容院へ向かう道で昔の恋人に似た男性を見つける表題作「いつもの道、ちがう角」の短編7作を収録。
 いずれも現実にわずかな幻想的設定を投入し独自の世界を作り上げる、という作者が得意とする作風の作品である。ただし、ミステリというよりも幻想ホラーともいうべき内容のものが多く、明確な結論の出ている作品は少ない。同じ幻想風味ということでも例えば『安楽椅子探偵アーチー』のシリーズとはオチの方向性ははっきりと異なっている。したがって本格ミステリ読みとして松尾作品に馴染んだ読者には物足りなかったりラストに不安感を覚えるかもしれない。しかし作者の方向性を広げる好短編集であることも間違いなく、「奇妙な味」や異色作家系の作風が好みの読者は積極的に読んでいただきたい一品だ。