大倉崇裕『七度狐』

七度狐 (創元クライム・クラブ)

七度狐 (創元クライム・クラブ)

 2003年7月購入。4年10ヶ月の放置。「季刊落語」の間宮緑は杵槌村という寂れた地で行われることになった春華亭の一門会の取材に訪れることになった。この一門会では引退を表明した六代目春華亭古秋が後継者となる七代目を襲名することになるという。候補は古秋の息子たち三人――古市、古春、古吉。いずれも古秋を継ぐには何らかの問題を抱えており、誰が継いでも穏やかにおさまりそうはない。そのような空気の中で殺人事件が発生、さらに村は豪雨によって陸の孤島と化す。やがて事件は連続殺人へと発展していく。
 テーマとなるのは見立て殺人であるのだが、趣向は非常にユニークだ。見立ての材料とされるのが落語「七度狐」で、狐に七度騙される男についての話なのだが、七度繰り返される演出がしつこいということで、上演される際は最初の二度のみが詳しく語られ後は省略されている。初代古秋は残りの五回も飽きのこないように話を考えたというが、詳細はつまびらかにされていない。殺人はこの落語に倣い、男が騙された様子に見立てて行われる。しかも、見立ては二度では終わらずに以降も行われる。結果、事件が進行することによって見立てが判明、すなわち初代古秋の創作した「七度狐」が明らかになっていくのである。この倒錯的な趣向は殺人事件という見地で見ると明らかに吸引力に乏しく移る。しかし、殺人事件の謎と落語の創作部分の謎を同じ地平に配置することによって、作品に別の吸引力を与えている。落語ミステリとしては相当に魅力的な作品だ。