有川浩『図書館戦争』

図書館戦争

図書館戦争

 検閲を合法化した「メディア良化法」なる法律が成立した時代が舞台となっている。規制に対し図書館は独自の防衛力を有することによって抵抗を示した。笠原郁は女性でありながら図書館防衛員として同僚や上司に叱咤激励されながら任務を務めるのだった。
 言葉狩りや表現の規制といった書き手あるいは読み手にとって看過できぬ重大な問題を内包しつつも、あくまで物語は作者の得意とする甘いラブコメ調で進んでいく。エンターテインメントとしてそれは正解であろうし、また成功しているとも言える。
 笠原郁の理想とする青臭い隊員像と、それだけでは任務は成り立たないと看做す上司の対比が鮮やかだ。そして読者は綺麗ごとを捨てて現実に対応することではなく、あくまで理想を頑固に抱き続けあがく主人公の真っ直ぐさにこそに魅力を感じ、羨望の情を抱くであろう。上司も自分の封印した理想にしがみつく郁に対し複雑な感情を抱いている。
 本書は成長小説的側面を持っているのだが、単に成長していくことだけでなく、成長するために何を捨て何を捨てずに取っておくかという問題を示しつつ、郁と言う女性を描いている。そして周囲の面々も郁の行動に少なからず影響を受けて成長していくことになるであろう。単にラブコメ的な部分だけでなく先々の展開が非常に楽しみなシリーズだ。