樋口有介『林檎の木の道』

林檎の木の道 (創元推理文庫)

林檎の木の道 (創元推理文庫)

 2007年4月購入。1年1ヶ月の放置。17歳の夏休み、広田悦至は元カノの宮沢由美果が自殺したという報せを受ける。自殺を信じない彼女の友人で悦至とも幼馴染である友崎涼子とともに由美果が死に至った事情を調査し始める悦至。やがて彼は由美果は自殺ではなく何者かに殺されたのではないか、という疑問を抱くことになり、さらなる調査を進めて行くことになる。
 ……以上、ストーリー展開や物語の人間関係は樋口テンプレにのっとったもので、読中及び読後に抱く感慨も他の樋口作品と似通ったものになるであろう。そんな中で本書の特徴をひとつあげるとするならば、人の生きる道、人生というものが明確に示されていることがある。主人公とヒロイン、そして被害者となった少女は17歳という若さであるが、互いに幼稚園の同窓生ということでまだ若いながらもそれなりの人生を背負ってきたことを表しており、主人公の母親、そして祖父の存在によってさらに続いていくことが長い人生が存在することを意識させる。そこで重要なのは、母親も祖父も人生というものを楽しんでいる、ということだ。幼馴染の死、という17歳にして辛い経験をした少年少女を主人公に据えて置きながら、物語に兆す陰鬱さ・深刻さというのものがさほど深いものとして刻まれておらず、読後感が重苦しくならないのはひとえにこの人生を謳歌する先達たちを丁寧に描いているからに他ならない。まこと青春ものの佳作といえよう。