佐藤賢一『ジャンヌ・ダルクまたはロメ』
- 作者: 佐藤賢一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/02/16
- メディア: 文庫
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佐藤賢一作品に登場する男性は、女性を非常に思いやっている。本書でいえば「ルーアン」の語り手ジャック・ドゥ・ラ・フォンテーヌや「エッセ・エス」のフェルナンド王子などはその傾向が顕著で、彼らの見せる情愛の精神は非常に好感が持てる。この情愛の精神は現代のフェミニズムとはまったく異なり、中世的な騎士道精神の表れともいうべきもので、男児たるものか弱い女性を守ってなんぼのものといわんばかりの男気の結晶である。これを現代的なフェミニズムの視点をもっともシニカルな角度に据えて眺めると、女性をカゴの中の鳥のように見ているのではとヒステリックに叫ぶことも可能だろう。だが、そのような行き過ぎた理知などいらない。大切なのは男児として生き様である。女性を守りたい、たすけたいという男として純粋な感情の発露を描いているからこそ、佐藤作品の男性には好感が持てるのだ。
もちろん、そういった騎士道精神を描いた作品のみならず、他作品いずれも高いリーダビリティに支えられた好短編であり読み応えのある作品に仕上がっている。