石持浅海『君の望む死に方』

君の望む死に方 (ノン・ノベル)

君の望む死に方 (ノン・ノベル)

 2008年3月購入。1ヶ月の放置。石持浅海本格ミステリというジャンルに非常に自覚的で、これまでに例えばクローズドサークルという当ジャンルにおいてポピュラーな、そしてポピュラーであるがゆえに安易に用いられがちな空間設定に凝ってみたりした。あるいは密室という本格の花型設定に対しては、あえて密室の扉を開かないという形で物語を展開させたりした。そして本書においては事件が起きる前に事件の存在を見抜く、という倒錯的なストーリーを構成して見せた。
 そもそも事件の発端そのものが奇をてらったもので、末期ガンにおかされて死を待つのみとなった男が、どうせ失う命ならばと自分を恨んでいる男に自分を殺させることにした、というものだ。そう思うに至る背景および心理、そして殺そうとする側の事情、水面下でそのような目論見があるとは知らぬ他の面々……諸々の要素からこれから起きるであろう事件の存在を、探偵役の薄井優佳が推理し、事件の起きるのをさりげなく防ごうとする部分が見所だが、事件を未然に防ごうとする優佳の言動がさりげないものであっても当事者視点ではきわめてKYなものになっており、当事者視点で物語を読み進める読者にもそのKYっぷりが目だってしまうところが欠点か。
 とはいえ、試み自体は評価に値するもので、殺されようとする側、殺そうとする側それぞれの視点から描かれる心理描写はそれなりに緊迫感もあり、読み応えはある。