古処誠二『敵影』

敵影

敵影

 2007年7月購入。8ヶ月の放置。終戦間際の8月14日、沖縄。近藤義宗は米軍の捕虜収容所にあって二人の人物を探していた。一人は命の恩人である看護学生・ミヨ、もう一人はそのミヨを死に追いやった男・阿賀野。訪れる終戦、ラジオから流れる敗戦の報、やりきれない気持ちで過ごす義宗のもとにミヨの消息が届く。そして意外な阿賀野の正体……
 敵影、とは戦時下の米軍を示すだけではない。終戦が訪れれば、一兵卒にしてみれば理不尽な命令を下す上司が敵となるし、戦災にあった一般人にしてみれば自分たちを守ってくれなかった兵隊たちが恨みの対象となる。しかしそれだけでない。やはり戦後日本を描いたデイヴィッド・ピースの『TOKYO YEAR ZERO』と同種の設定、仕掛けが施されているのだが、その扱い方の異なり方が興味深い。ピース作品はあくまでその仕掛けをミステリとして扱っているのに対し、古処の本書は戦争小説のなかでの一演出にとどまっているのだ。メフィスト賞出身で純粋なミステリ作品をものしてきた作者であり、らしさを感じさせる仕掛けでもあるのだが、同時に作家として拠って立つところはもはやミステリではない、ということをしみじみと思ってしまった。