坂木司『仔羊の巣』
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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前作に引き続き、各短編ともいわゆる「日常の謎」系の話として成立しているのだが、作者はやはり前作同様、根っからの悪人が一切登場しない世界を描いている。確かに作中には悪意が存在し、坂木や鳥居を筆頭に、登場人物は悪意の標的にはなるのだが、その悪意はそもそもが誤解から生じたものであって、その誤解が解けると悪意の持ち主はあっさりと善人へと変化してしまう。実際に悪意に満ちた現実という世界で暮らしている者から眺めると、この世界観は甘っちょろいの一言に尽きる。
敵対していた者同士の誤解が解けて和解するシーンは確かに感動的で、泣ける話なのかもしれない。しかし、土台となる世界が上記のごとく善人たちばかりの世界であり、所詮はそこで生じた敵対である以上、その感動も薄ら寒いものにしかなりえない。感動の涙は薄汚い世界からこそ生まれるのであって、無菌培養されたキレイキレイな世界から決して生じえないはずで、無邪気に泣ける、感動したと諸手を挙げて歓迎するような話とはいいがたい作風だ。