樋口有介『海泡』

海泡 (中公文庫)

海泡 (中公文庫)

 ネタバレ気味なのでたたみます。
 本書の舞台となるのは小笠原の父島である。主人公は中高とそこで過ごしながらも、大学進学を期に本土へと移り住んだ。夏休みで帰郷した際に起きた殺人事件を独自に調べ、解決するというのがメインストーリーで、田舎から都会へ出て行った者が帰郷し、昔の仲間たちが絡む事件を捜査する。そしてその過程で仲間たち、そして自分自身の変化や成長を思い知る――という構図は『風少女』と似通っている。
 しかし本書で際立っているのはその構図が徹底していることだ。探偵役の主人公はもちろん、被害者も同様に進学とともに本土へ出た少女であるし、捜査を手伝う少女も本土出身の同窓生の少女、容疑者は本土からやってきた被害者のストーカー、そして犯人も本土からの移住者である。
 後書きで作者自身が記しているように、作者のねらいは「スモールタウン小説を書きたい」ことであったのだろう。そこに事件が絡めば必然的にスモールタウンの内部の者と外部からの異邦人の対比・対立が問題視されるであろう。事件に関係する登場人物の配置に見られたこのような構図は舞台設定が要求するものであるといえよう。
 ストーリー自体は相変わらずの樋口小説というもので、ともすればギャルゲ展開にもなりかねない主人公の周囲からのモテぶりで、そこから事件を通して生ずる青春の終焉を感じさせる寂寥感、喪失感といったやるせなさを堪能できる佳作である。