山田正紀『カオスコープ』

カオスコープ (創元クライム・クラブ)

カオスコープ (創元クライム・クラブ)

 2006年7月購入。1年8ヶ月の放置。本書は二つのパートによって構成されている。過去の記憶が曖昧な作家・鳴瀬君雄の視点で展開されるパートと、その鳴瀬の周辺で起きた殺人事件を追う刑事・鈴木のパートだ。前者は事件の当事者であるにもかかわらず記憶障害によって真相を知ることができずにおり、後者は外部の人間ゆえ事件を見る視界は朦朧としている。読者である我々は内部/外部二つの視点を追いながらもはっきりとしない事件の真相を求めてページをめくっていくことになる。そしてラストで明かされる真相で、ミステリ・SFという両ジャンルで健筆を振るう作者の実力ぶりをはっきりと見せつけられることになる。この両ジャンルいずれの面から見ても優れた作品といえ、読後の満足感は非常に高い作品である。