道尾秀介『ラットマン』

ラットマン

ラットマン

 2008年1月購入。1ヶ月の放置。姫川亮は高校時代から社会人になってからも、都合14年、友人たちとバンドを組んできた。その間、メンバーの紅一点、小野木ひかりと恋仲になる。やがてひかりはメンバーを抜け、かわりに妹の桂が仲間に加わる。姫川はひかりと付き合いを続けるのだが、妹に心を惹かれていくことになる。そんな中、いつも練習に使っていたスタジオの閉鎖が決まる。そのスタジオでの最後の練習を行っている最中、ひかりが死んでしまう。当初は事故と思われていたのだが、殺人の線が濃厚に……
 視点人物の錯誤を利用した大掛かりなトリック、及びそのトリックが明らかになった際に読者に提示される物語の構図の大きな転倒――これまでの道尾作品に見られた特色は本書でも健在で、これまでの道尾読者には期待を裏切らない出来となっている。
 また、『向日葵の咲かない夏』『シャドウ』『背の眼』など従来の作品で多く用いられた「子どもがトラウマとなるような辛い事件に見舞われる」というモチーフが本書でも登場するのだが、本書で大きく異なるのは従来作品が子どもがリアルタイムで危機に遭遇するのに対し、それが登場人物の過去の出来事として扱われている点だ。さらにその出来事を現代の事件と非常に上手く噛み合わせることにより、作品そのものを複合的に厚みを持たせている。もうひとついうならば、この現代の事件の解決が過去のトラウマの解消へとつながっており、作品の構成の仕方が非常に巧だ。ゆえにややご都合主義と言える部分もあるが、それも些細な傷でしかあるまい。