折原一『倒錯の死角 201号室の女』

 折原一の長編第1作目。アル中による入院から復帰した翻訳家・大沢、同じくアル中で入院中は大沢とも面識のあったコソ泥・曽根、大沢の家の前のマンションに住むOL・真弓、そして真弓の母・ミサ子。本書はこの四者のパートを使い分けることによって進行する。のぞき趣味のある大沢は真弓を観察するのだが、その過程で一方的にいらぬ妄想を抱くようになる。大沢を毛嫌いする曽根は大沢のこの性癖に気づき、大沢ならびに彼の観察する相手に興味を抱く。そんな中、真弓はなにやら事件に巻き込まれていくようで……
 折原作品ということ、さらに視点の移り変わり、あるいは途中で日記形式での進行が行われる、などである程度どういった趣のものか予想は可能で、ラストでの驚愕を如何に得るか、ということのみに価値観を求める読者にはそもそも向かない作品といえる*1。しかし、そこに至るまでの過程で描かれる緊迫感などは普通のサスペンス作品と読むことも可能で、屈折した読者でなければそのあたりも十分に楽しめるであろう。

*1:これは本書、あるいは折原作品に限ったことではない。ある種の偏向した読み手にとってまことに生きにくい時代だ。