桜庭一樹『GOSICK』

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)

 1924年、ヨーロッパの架空の小国ソヴュールに留学した日本人・久城一弥がヴィクトリカという少女に出会い、事件に遭遇するという作者の人気シリーズの第1作。二人は過去に起きた、船の乗員乗客がすべて消失したという<QueenBerry号>事件とそっくりな状況に陥るのだが、はたして事件及び謎の真相は……という、ミステリ風味の強い作品となっている。
 事件を彩る謎のみならず、それを解き明かす探偵役たるヴィクトリカの存在がこのミステリ風味を決定付けているのだが、彼女の存在自体、ミステリにおける探偵役という特権階級の象徴といえる。元来、桜庭一樹は作品の中で少女という存在を意識的に用いてきているのだが、本書においてはその少女に男性のような名前を与え、かつ、少女に相応しくない老女のようなしわがれた声の持ち主と設定している。前者は性差の超越、後者は年齢とそこから生じる未熟さの超越の象徴として読み解くことが可能で、明らかに普通の少女とはちがう、特別な存在として設定されている。これが作者の意図したものかどうかは別にして、少女の名探偵としてこれほど相応しい存在はそうはいないであろう。