デイヴィッド・ピース『TOKYO YEAR ZERO』

TOKYO YEAR ZERO

TOKYO YEAR ZERO

 1946年、終戦直後の東京で実際に起きた連続殺人事件をモチーフとした暗黒小説。作中で繰り返し用いられるフレーズ「見かけ通りの人間は誰もいない」に象徴されるように、戦中/戦後の日本あり方の違い、そしてそこで暮らす人々の生き様が徹底して描かれていくのだが、それは「悲惨な戦争が終わって平和で民主主義的国家に生まれ変わった」などという明るさとはまったく無縁な、むしろ逆の暗さを持った世界として存在する。そしてこのテーマは最後にある壮大な仕掛けとして姿を現す。単なるノワール、あるいは戦後日本を描いた作品としてのみならず、本格ミステリ読みも一読の価値あり、だ。なお、ストーリーの流れとはかけ離れたところで太字で頻繁に挿入される描写が多く、文章自体は決して読みやすいとはいえないが、その描写自体が作品の肝であるので頑張って読みましょう。また、巻末に懇切丁寧な解説があるので読後はそれを参照すべし。