坂木司『青空の卵』

青空の卵 (CRIME CLUB)

青空の卵 (CRIME CLUB)

 2002年5月購入。5年7ヶ月の放置。探偵役は引きこもりで、ワトソン役の親友が彼に事件を持ち込む。事件に関わり、さまざまな人たち触れ合うことによって探偵役は次第に引きこもり状態から脱していくのでした――いわゆる日常の謎系のミステリであるが、物語の基本軸はこのような引きこもり青年の成長、そしてその青年とワトソン役の友情にあるといっていい。事件に関わるということは必然的に社会に触れざるを得ないわけで、このようなミステリにおけるお約束的構造をひきこもり問題に絡めた着眼点は秀逸である。しかし、引きこもり生活に至ることになった青年の心の傷は設定として語られるのだが、あくまでそれだけのことでしかなく読み手を引き込むほどの吸引力=筆力は感じられない。また、その青年を助けるワトソン役の世話焼きも友情と呼ぶには度を越している感がある。このような瑕疵が引っかかって、作品世界に不自然さを感じてしまった。