西澤保彦『収穫祭』

収穫祭

収穫祭

 2007年7月購入。5ヶ月の放置。全5部に分けられているこの大作は、大別して二つのパートに分けられる。首尾木村で起きた大虐殺の顛末をリアルタイムで記した第一章と、その事件の真相が明かされる以降の章だ。冒頭の第一章では首尾木村という過疎地での出来事が数少ない生き残りであった少年の一人・伊吹省路の視点で語られる。そこで事件の有様のほとんどが描かれるのだが、肝心の真相部分は隠れたままだ。時が過ぎて彼ら生き残りの少年たちが大人になってから事件が蒸し返されることになるのだが、陰惨な事件そのものがトラウマとなってしまい、省路ややはり生き残った女性・繭子は第一章で読者に示されることのなかった核心部分を記憶の底に追いやってしまっていた。この記憶の発掘が第2章以降で描かれることとなる。ミステリにおける謎解きに必要な要素として、関係者の証言があるが、人間の記憶能力の曖昧さゆえに証言そのものの曖昧さが生じ、謎解き材料としての信頼性が問題となる――作者は以前『夏の夜会』でこのようなミステリのお約束を問うたのだが、本書でもこの問題が大きく扱われていくことになる。それだけでなく、それに関わるトラウマについてや、あるいはフェチ的嗜好といった西澤が好んで用いるテーマがこの大作に存分に盛り込まれている。その意味ではまさにこの作者らしい作品といえる。パズラー性をもっと前面に押し出してくれれば言うことなしだったのだが。