有川浩『海の底』

海の底

海の底

 突如出現した巨大エビの大群によって横須賀界隈はパニックに陥る。桜祭りの見学にやってきた子どもたちは避難のため自衛隊の潜水艦へ逃げ込むが、艦内には若い男の隊員が二人のみ。救助を待つ間、その大人二人と子どもたちは潜水艦で生活をともにすることになる。若いながらも大人である男二人とわがままで自己中な子ども、男だらけの集団に唯一混じる少女、そういった面々のやり取りを描いた秀作。みなしごであり、失語症の弟をかかえ、日常では近所の子どもたちにはぶられている少女の心境と現在の状況が産む二重の閉塞感が痛々しいものの、一方で大人二人の励ましでそれらに立ち向かう強さを少女は見せることとなる。
 巨大エビの脅威に対しては絶対的といってもよい防御力を見せる潜水艦内を舞台としているため、パニック小説としての印象は薄い。しかし、閉鎖状況にあって追い詰められる精神状態と戦う子どもたちの成長小説としての色合いは濃厚だ。ラストにみせる甘ったるすぎるオチもご愛嬌。