近藤史恵『サクリファイス』

サクリファイス

サクリファイス

 2007年8月購入。3ヶ月の放置。自転車ロードレースの世界を舞台にした青春ミステリ。サクリファイス――犠牲というタイトルにあるとおり、主人公は自分を犠牲にしてレース自体のペースをひっぱり、自チームのエースをアシストする役割に徹する。そこで繰り広げられる駆け引き、あるいは主人公の感情、エースや仲間とのやりとり、そういったロードレースの世界に関するさまざまな描写が巧みで、その世界のことをまったく知らない人間であっても作中世界に没頭することとなるであろう。
 ミステリ要素もしっかりと組み込まれており、そこに込められた犠牲のもうひとつの意味が明らかになるや、読み手の心は揺さぶられること請け合い。また、作者の得意とする「被害者の立場に立った者の発する悪意」もしっかりと描かれており、そういう点では作者の持ち味も十分に発揮できているといえる。