伊坂幸太郎『死神の精度』

死神の精度

死神の精度

 人間は事故や事件など寿命以外で死んでしまうことがある。そのような突発的な死に見舞われる人間を決める役割を担っているのが本書における死神である。死神には特徴がいくつかあり、苗字に街の名前がついていたり、素手で人に触ると相手を気絶させてしまう能力を持っていたり、音楽を異常なまでに愛していたりする。本書の語り手・千葉はそういった特徴に加え、仕事の時は必ずといっていいほど雨に降られるため太陽を見たことがなかったりする。死神は対象人物の七日前に接触する。その際の印象で死なせるか否かを決定するのだが、いいヤツだから死なずにすんだり、悪いヤツだから死ぬべきだというような人間倫理に基づくジャッジをするわけではない。たいていは死ぬことに対して可の判定を下す。したがって各短編の見所は死神による生死のジャッジにあるのではなく、死神と対象人物の触れ合い、及びそれとは無関係に生じる事件にある。中でもユニークなのは「吹雪に死神」という短編で、この話はいわゆる本格ミステリのタームで言うところの吹雪の山荘ものであるのだが、死神の設定を活かしたメタ的な視点で事件及び物語を展開させていく。単純に伊坂のキャラクター造形、あるいは会話のセンスのみならず、ミステリ作家としてのセンスも垣間見られる、好サンプルとなりうる作品だ。