石持浅海『Rのつく月には気をつけよう』

Rのつく月には気をつけよう

Rのつく月には気をつけよう

 2007年9月購入。2ヶ月の放置。大学時代の同級生・長江、熊井、夏美の3人は卒業後も頻繁に飲み会を開いて集まっていた。飲み会には必ず3人のうちの誰かがゲストを連れて来ることになっており、そのゲストを囲んで会話なり酒なり酒肴なりを楽しむのが通例であった。しかも、3人の中でももっとも切れ者である長江はゲストのちょっとした話から意外な事実を浮かび上がらせることができた。
 以前に牡蠣にあたった経験とその際の先輩社員夫婦の話「Rのつく月には気をつけよう」、チキンラーメンを硬いまま砕いて食べる男とその彼女の話「夢のかけら 麺のかけら」、チーズフォンデュがきっかけで思い起こされた去年のバレンタインデーの話「火傷をしないように」、彼女と別れるきっかけとなった豚の角煮の調理法の問題「のんびりと時間をかけて」、プロポーズの際に持ち出されたぎんなんの話「身体によくても、ほどほどに」、海老アレルギーの男の唇がなぜか腫れ上がった話「悪魔のキス」、そして長江たち3人の過去話「煙は美人の方へ」。
 いずれも酒肴の話がきっかけとなり、色恋がらみの話に落ちると言うパターンが共通している。些細な点から広げられていく長江の推理はそれ自体面白く、また、短編集のオチとなっている最終話で判明するミステリ読みのツボをくすぐる仕掛けも(歴戦の読み手には)単純とはいえ、心憎いものがある。本格の短編集としては間違いなく高水準にあるといえる。一方で欠点もある。石持作品は本書に限らずすべてに共通するものだが、ミステリ的外観にこだわるあまり、単純な動機や心理の動きを避ける傾向にある。そのような心理面での動きは面白いものであるのだが、説得力という点において不自然であり説得力に欠けてしまう。本書は恋愛がらみの心の機微を扱っていながら、相手を思う気持ちから取ったであろう行動が、本人以外、おそらく当事者の恋愛相手にも読み取りにくいものとなっているのだ。「火傷をしないように」の男女二人の奇妙な行動とその裏にある気持ちなど、特に理解しがたいものであった。これは私が鈍感な非モテヤローだからでしょうか?