佐藤亜紀『ミノタウロス』

ミノタウロス

ミノタウロス

 2007年5月購入。5ヶ月の放置。20世紀初頭のロシア、貧農から地主に成り上がった家の息子が革命によって訪れる怒涛の嵐に巻き込まれる物語。さまざまな人々との出会いと裏切りに彩られた主人公の人生は暗く、終始エンタメ的カタルシスとは程遠い展開に支配されている。また、この時代につきまとうイデオロギーによる影響とは無縁で、ただ純粋に「世界」そのものをストイックに描き出している。そのストイックさは文章描写のレベルにおいても徹底されており、300ページ弱の作品とは思えない緊密さ・濃厚さでもって圧倒的存在力を示している。そのような性質ゆえ、本書は読者に積極的な読解力を求めるのであり、読者は常に緊張感を抱きながら読み進めていかねばならない。しかし、その濃密な読書体験こそ読み手にとってこの上ない至福なものであることは疑いない。ユルユルでヌルヌルな読書では物足りない向きの本読みはぜひ一読すべし。