田中哲弥『やみなべの陰謀』

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

 2006年4月購入。1年半の放置。本書は五つのパートによって構成されている。「千両箱とアロハシャツ」では栗原守のもとに謎の千両箱が届けられる。何の心当たりもない守であったがこの千両箱(中身は九百九十九両の小判)が原因でトラブルに巻き込まれる。続く「ラプソティー・イン・ブルー」では栗原守は出会ったばかりの女性・立花茜と恋に落ちるのだが、なぜか異常なまでの既視感にとらわれてしまう。江戸時代が舞台となる「秘剣神隠し」では下級武士の吉岡伸次郎が受難にあい、幼馴染のるりとの恋が悲劇的な結末を迎える。時は未来に移り「マイ・ブルー・ヘヴン」では大阪至上主義が日本を支配しており、そんな世界でのレジスタンスたち活動が描かれている。これらの一見独立しているそれぞれの物語がラスト「千両は続くよどこまでも」でつながりを見せる。いわゆる時間SFものなのだが、タイムトラベルに使われる方法がとんでもないおバカなものだ。それのみならず、各短編のかもし出す空気もおバカで非常に笑えるものとなっている。にもかかわらず、それぞれの時空を結びつけ、作品全体を構築する手腕は丁寧かつ緻密だ。