ジュール・ヴェルヌ『地軸変更計画』

地軸変更計画

地軸変更計画

 1996年5月購入。11年10ヶ月の放置。どの国のものでない北極の地が競売にかけられた。落札したのはアメリカのバービケインで、彼の経営するバービケイン社は「北極実用化協会」なるものを運営していた。「北極実用化協会」のメンバーには『月世界旅行』に参加した者たちがおり、彼らによって壮大な北極利用のための方法が考えられ、実行されようとしていた。その方法とは、地軸をずらし、北極の氷を溶かすというもので、それによって地下に眠る炭鉱を掘り起こさんとしていた。
 SFの祖、ヴェルヌの作品ということもあって使われるテクノロジー及びその理論は現代的視点で見ると牧歌的で微笑ましさを覚える程度のものである。しかし、地軸変更によって生じるであろう影響に対する予見は現代的で、ヴェルヌの他作品にも見受けられる、科学は万能ではなく利用法よっては人間にとんでもない不幸をもたらすというシニカルな考え方*1がここにも登場する。また、冒頭での北極の競売シーンでは各国の思惑によって思わぬ喜劇的シーンが生じているが、これもまた非常にシニカルである。

 同時収録は「西暦二八八九年・アメリカの新聞王の一日」。こちらはスラップスティック風味の佳品。

*1:これはヴェルヌのみならず、ロボットの祖チャペックの『R.U.R』にも共通するSF黎明期から存在する思想であるといえる。