山田正紀『雨の恐竜』

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

 2007年3月購入。半年の放置。恐竜の化石発掘現場のある田舎町で起きた殺人事件。現場には大型動物の足音らしきものが残されており、恐竜の仕業ではないかという噂が流れていた――この殺人事件の被害者である教師の教え子や恐竜学者が絡み、物語は進行していく。中でも3人の少女が中心になるのだが、彼女たちの描写が秀逸。語り手である映画好きの少女・ヒトミ、恐竜オタクのサヤカ、学年一の美少女でありながら口が悪くぶっきらぼうのアユミ。3人は幼馴染でありながら、歳を経るにつれてなんとなく疎遠になっていった。思春期ならではなの大人への反発、それぞれに夢を抱き、悩みを抱え生きる彼女たちの心情、現在微妙な距離感にありながらも失われることのなかった友情……このような青春小説的要素をふんだんに盛り込みながら物語を進めていく作者・山田正紀の筆の冴えの何と素晴らしいことか。少女たちの生態は50過ぎのおっさんが描いているとは思えないほど自然だ*1ヤングアダルトものの佳作であるといえよう。残念ながら、提示された謎はすべて本格ミステリの次元で解決されるわけではないので、本格至上主義者からは読みどころを間違えた無用な批判を受けるかもしれない。ただし、それはこの上なく見当違いなことではあるが。

*1:あくまで30代独身非モテキモオタ男性の意見