道尾秀介『ソロモンの犬』

ソロモンの犬

ソロモンの犬

 道尾風青春小説。大学へ進学した秋内静は羽住智佳に恋をする。イケメンの友人・友江京也の計らいで智佳と仲良くなった静は、京也の彼女にして智佳の親友・巻坂ひろ子を含めた四人で大学生活を謳歌する。しかし、一人の少年の事故死が彼らの友情のバランスを崩すことになる。事故は偶然に起きたのではなく、現場に居合わせた仲間が何らかの関与をしているのではないか……静はそのような思いにとらわれていくのだった。
 いかにも道尾作品らしい大掛かりなトリックが仕掛けられているのだが、あざとさが目立ち、本格ミステリ的結構という点から鑑みた場合、どうにもすわり心地の悪い出来になっているといわざるを得ない。これは前作『片眼の猿』にも見受けられたのだが、作者は本格ミステリとしての美しさを求めるよりも、物語としての展開運びの面白さを明らかに重視している。本格ガジェットは物語を盛り上げるための材料でしかない、という姿勢はいくつかの作者インタビューで散見されるもので、本書はその姿勢の表れであるといっていい。おそらくフェア/アンフェアとか構築美とか伏線の妙といった本格ミステリ的結構に重きをおく読者は強い拒否反応を示すかもしれない。だが、そういったしがらみから離れて一作品として読んでみるとどうであろうか。恋や友情に悩まされる若者の物語として十分に面白い。事件はあくまでそういった若者たちの物語を盛り上げるための一要素でしかないのではないか。事件を構成するトリック然り。