加納朋子『ぐるぐる猿と歌う鳥』

ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)

ぐるぐる猿と歌う鳥 (ミステリーランド)

 2007年7月購入。1ヶ月の放置。父親の転勤にともなって東京から北九州へ引っ越した少年・森はそこで新たな友達を作る。その中に、パックと呼ばれる不思議な少年がおり、森はパックを取り巻く環境になにやら不自然なものを感じる……
 ミステリーランド(というより少年少女もの)としてはお馴染みの、都会の少年が田舎を訪問するストーリー。本書の場合は都会の少年である森がもやしっ子とは程遠いワンパク少年で、すぐに田舎の子たちと溶け込んでいくのが特徴だ。したがって展開的には都会―田舎の対比の構図を用いたものにはならず、森の周囲ではスムーズに友人関係が築かれていく。そして逆に他所からやって来た森が、他所へ行ってしまう友人のために奮起する、というホームとアウェーが逆転したかのようなユニークな展開を迎える。
 冒頭で描かれる森の幼年時代の思い出を巡る逸話も、ミステリ的な仕掛けとしての役割のみならず、物語全体を通して筋の通った一つの軸として機能しており作中世界に安定感を与えている。
 そしてなによりも少年少女の友情物語として、叢書中屈指の出来である。