芦辺拓『不思議の国のアリバイ』

不思議の国のアリバイ (光文社文庫)

不思議の国のアリバイ (光文社文庫)

 2003年7月購入。3年10ヶ月の放置。特撮映画『大怪獣ザラス』の撮影はトラブル続きだった。撮影途中に起きた監督を含むスタッフの引き抜き、それをきっかけに乗り出してきた悪名高き”乗っ取り屋”、果ては引き抜きのをかけた張本人殺害されるという事件まで勃発する。殺された熱川一郎に対して動機を持つ人間として撮影スタッフの一人・遠野聖滋は殺人の容疑で拘束されてしまう。彼の無実を証明するため、森江春策は奔走するのだが……
 映画に対する情熱を持つ人々を全面に押し出し、それを盛り上げる演出として事件は起きる。全体的に暑苦しいくどい文体であるのだが、さほど読みにくいわけでもなく、むしろ登場人物の熱気が伝わってくるようでさほど悪い印象は抱かなかった。タイトルどおりミステリ的にメインとなるのはアリバイ崩し――ハウダニットなのだが、終盤まで犯人を明らかにさせないあたりフーダニットとして作品を機能させている辺りは、本格書きとして自覚的な作者の面目躍如といったところか。