谷原秋桜子『龍の館の秘密』

龍の館の秘密 (創元推理文庫)

龍の館の秘密 (創元推理文庫)

 2006年12月購入。5ヶ月の放置。行方不明の父を探すための資金稼ぎで日々バイトに励む女子高生・倉西美波が新たにはじめたバイトは托鉢僧。そこで知り合った面々と成り行きで「龍の館」を訪れた美波は殺人事件に遭遇する。
 本シリーズは漫画的・ラノベ的なキャラクター造詣に立脚点を置いてそこからミステリ的構造・展開を構築したのではないだろうか。本格ミステリとしての伏線やトリックに取り立てて問題はないのだが、立脚点がキャラクターにあるためにそういったミステリ的趣向の演出(特に探偵役によるわざとらしい真相解明の遅延)がいささか不自然という印象を受けた。といってもこれは作品の瑕疵としてでなくあくまで作品の個性として捕らえたい。

 以下は余談。本書の探偵チームは主人公の美波、友人であり権力者に顔の聞くお嬢様かのこと父親が刑事の直海、そして探偵役の修矢で成り立っている。この4人の役割分担にデジャヴを感じたのだが、そのデジャヴの正体は「三国志演義」にあると気づいた。取り立てて優れた能力はないものの、周囲の人間に救われる主人公劉備=美波、側近的ポジションにある友人(義兄弟)の関羽張飛=かのこと直海、優れた智謀で主人公を助ける探偵あるは軍師の孔明=修矢。まさか「三国志演義」をもとネタにキャラクター設定をしたとは思えないが、例えば主人公を含む4人チームといえば他にも「三銃士」や「西遊記」など王道的作品があり、そういった点をかんがみると4人チームというのは登場人物の能力配置・性格設定などといった面で非常にバランスのとりやすいのかもしれない。