大倉崇裕『三人目の幽霊』

三人目の幽霊 (創元クライム・クラブ)

三人目の幽霊 (創元クライム・クラブ)

 2001年5月購入。5年11ヶ月の放置。「季刊落語」の編集者・間宮緑の周囲で起きるさまざまな事件を上司である牧大路が解決していく。短編を5編収録しているのだが、事件の内容が落語界内部のものと語り手である緑の周辺で起きるものとが交互に描かれており、読み手はなじみのない落語界と緑の等身大の生活を垣間見ることによって、作品世界そのものを立体的に捉えることができる。また、緑の周辺で起きる事件も背景にある人間の感情がある特定の落語作品に通ずる要素があり、その辺をうまく組み合わせることによって全編をひとつの「落語ミステリ」という作品に仕上げられている。デビュー作にしては地に足のついた好短編集といえる。