仁木英之『飯綱颪 十六夜長屋日月抄』

飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)

飯綱颪―十六夜長屋日月抄 (学研M文庫)

 2006年12月購入。4ヶ月の放置。深川の十六夜長屋に住む甚六は妻に先立たれて娘と二人暮らし、泥鰌漁を生業とすることによって日々の糧を得ていた。ある時甚六は行き倒れの男を拾ってくる。見かけは厳つく巨体でまるで鬼のようなその男は記憶を失っていたのだが、何やらただものではないようで……

 ファンタジーノベル大賞受賞作『僕僕先生』でデビューした仁木英之の第2作。その『僕僕先生』ではツンデレ要素ありの僕っ娘仙人をヒロインとすることで好評を博したのだが、本書のヒロインは打って変わって妙齢の未亡人*1ということで、人物造詣の幅広さを見せつけている。また、『僕僕先生』が牧歌的な空気が濃厚だったのに対し、今作ではアクション要素が強く、全編通してなかなかの緊張感を漂わせている。この作者、ヒロインを含むキャラクター設定のみならず、唐代中国と江戸時代という舞台選択、中華的仙人ものから和風忍者ものといったように引き出しの広さとそれを作品に活かす柔軟さを持ち合わせており、今後も楽しませてくれそうな予感がある。

*1:甚六の娘をヒロイン役に擬することも可能だが、主に甚六視点で物語が進む以上実の娘よりは思いを寄せる未亡人のほうがヒロイン役というに相応しい。