柄刀一『時を巡る肖像』

時を巡る肖像

時を巡る肖像

 2006年11月購入。5ヶ月の放置。妻に先立たれ息子と二人暮らしをする御倉瞬介。絵画修復士という仕事をこなすなかで起こるさまざまな事件に巻き込まれながらも、瞬介はその事件を解決していく。6つの短編を収録。

 絵画修復士を探偵役に据えたミステリとしては、本書の他に北森鴻の『深淵のガランス』がある。絵画界という同種のテーマ・同じ職種の探偵役を用意しておきながらも両者のアプローチは大きく異なる。そしてその差異がそのままそれぞれの作者の作風を表しているようで非常に興味深い。
 絵画という芸術を金に結びつけ、生臭い動機・事件という面を描く北森に対し、柄刀は芸術家的発想が事件の動機・真相に結びつく話が多い。そういった芸術家の発想の奇抜さが作り出す独特のロジックを本格ミステリというフフィールドにうまく流用することで、完成度の高い端正な作品を作り上げている。ただし、作品のキモとなるのがあくまで独自のロジックであり、派手なトリックとは無縁であるため本格として地味なものとなっている点は否めなず、総合的な印象は薄くなってしまった感がある。