泡坂妻夫『黒き舞楽』

黒き舞楽 (新潮文庫)

黒き舞楽 (新潮文庫)

 郷土に古くから伝わる一刀彫の職人・鈷口繁雄は妻を二度亡くしていた。一度目は交通事故、二度目は心臓発作。いずれも繁雄自身が不在のときの出来事だ。二度の不幸で繁雄と結婚することは不吉だという噂が流れる一方で、繁雄の家には代々伝わる美しい浄瑠璃人形があり、そのいわくつきの人形の影響を気にする人物も現れる。彼の小学校時代の教師で繁雄の初恋の人でもある・奏江もその一人だ。繁雄は彼女の心配をよそに三度目の結婚をするのだが、その相手もまた不審な死を遂げるのだった……

 江戸期につながる伝統文化の香りや、官能的な男女の恋愛の機微といったところを描かせると泡坂は抜群にうまい。とりわけ本書ではその男女の恋愛感情のゆがんだ発露がミステリ要素に見事に結びついており、エロいしフェティッシュでありながらも優れたミステリになっているというお得な1冊。復刊を望む。