二階堂黎人『カーの復讐』

カーの復讐 (ミステリーランド)

カーの復讐 (ミステリーランド)

 2005年11月購入。1年5ヶ月の放置。古代エジプトの秘宝を手に入れるべく、発見者にして持ち主のボーバン博士の城に進入した怪盗ルパン。そこで待ち受けていたのはまるで生霊「カー」の呪いだといわんばかりの奇怪かつ奇妙な殺人事件であった……

 ミステリーランドのターゲット層の半分である現在のお子様に対して作者は、少年探偵団と並んで子ども向けミステリの定番ともいうべきルパンを主人公に用い、さらにはおどろおどろしい事件を材料として持ってきてそれを大仰な文章で飾り立てるというまさに王道ともいうべき戦略をとった。一方でかつてのお子様たちに対しては本人もうそぶくように、こちらも本格ミステリの王道たる某有名トリックの新機軸を用いることによってご機嫌を伺った。もっとも、結果として作者の意気込みは空回りに終わり、後の「俺ミス」発行という悲劇的とも喜劇的ともいえる展開を迎えることになってしまった。思うに二階堂黎人という作家は自身の信ずる領域にとどまる限りきわめて誠実な作家なのだと思う。しかし自ら定めた領域の一歩でも外に出てしまうとその誠実さは欠片も見られなくなり、結果として領域外の大多数の人間*1にはマイナスの印象を抱かせることになってしまう。とてもかわいそうな人だと思う。

*1:本人の言葉を借りるのであれば「本格無理解者」。