道尾秀介『片眼の猿』
- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/02/24
- メディア: 単行本
- クリック: 16回
- この商品を含むブログ (100件) を見る
作者得意の「錯誤」を根底に据えたトリックの畳み掛けには圧巻させられるものの、そのしかけ自体がトリックのためのトリックに過ぎないためミステリとしての完成度は低いと思う。そこには例えば『向日葵の咲かない夏』のようなそこまで築き上げてきた作品世界が崩壊するかのような衝撃はないし、『シャドウ』のような作品テーマとの結びつきは希薄である。物語そのものは吸引力が強く非常に面白いのだが、それゆえに技巧に頼ったミステリ的趣向があだになった感が強い。文章のノリも洗練されきってない伊坂幸太郎ようでなんともむずがゆい気分にさせられた。
と、否定的な評価を下してしまうのはおそらく道尾秀介という作家に対する期待値が高いものだからで、これまで発表された作品とは別に本書単体のみで評価するならばそれなりの良作であることは疑いない。