道尾秀介『片眼の猿』

片眼の猿 One‐eyed monkeys

片眼の猿 One‐eyed monkeys

 2007年2月購入。1ヶ月の放置。盗聴専門の私立探偵を営む三梨幸一郎は楽器メーカー内での産業スパイを調査することになった。自分と似た「特徴」を持った女性・夏川冬絵を新たな仲間に加え、調査を進めていたのだが、そこで殺人事件に遭遇してしまう……

 作者得意の「錯誤」を根底に据えたトリックの畳み掛けには圧巻させられるものの、そのしかけ自体がトリックのためのトリックに過ぎないためミステリとしての完成度は低いと思う。そこには例えば『向日葵の咲かない夏』のようなそこまで築き上げてきた作品世界が崩壊するかのような衝撃はないし、『シャドウ』のような作品テーマとの結びつきは希薄である。物語そのものは吸引力が強く非常に面白いのだが、それゆえに技巧に頼ったミステリ的趣向があだになった感が強い。文章のノリも洗練されきってない伊坂幸太郎ようでなんともむずがゆい気分にさせられた。
 と、否定的な評価を下してしまうのはおそらく道尾秀介という作家に対する期待値が高いものだからで、これまで発表された作品とは別に本書単体のみで評価するならばそれなりの良作であることは疑いない。