有川浩『塩の街』

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

塩の街―wish on my precious (電撃文庫)

 塩が世界を埋め尽くす塩害の時代に生きる男女、秋庭と真奈の物語。滅び行く世界、あるいはその世界で生きる身近な大切な人に対してどういった思いを抱くか、そしていかに生きるべきかという問いに対してこの二人がどう答えるかというのが全体的なストーリーの流れであるが、前半の二つの章で世界に対する前向きな思いと憎悪の感情を二人につきつけることによってテーマを明確にさせることで物語の焦点をずらさずに進めていく構成は巧みだ。全体的に甘ったるすぎる点は読み手によっては拒絶感を抱かせるであろうが、そのあたりを差し引いたとしてもなかなかの佳作である。