栗本薫『グイン・サーガ112 闘王』

闘王―グイン・サーガ〈112〉 (ハヤカワ文庫JA)

闘王―グイン・サーガ〈112〉 (ハヤカワ文庫JA)

 グイン・サーガ最新刊。100巻超の長大な物語の主人公はいうまでもなく豹頭の戦士グインである。したがって維持の悪い見方をすれば、このグインという戦士はこれまで幾度となく主人公補正を受けてきた。そもそも戦士として最強であり、肉体面以外でも精神的(あるいは魔術的な)エネルギーという面でもほかの登場人物と比べて群を抜いている。そして、深い考えなくいき当たりばったりに行動しても臨機応変にとった行動が結果としてプラスに働いたり、極端なときは単に強運に恵まれたりで危機を脱し、結果オーライで済むことが多い。そんな展開がしばしば訪れるなか、今巻ではグインのとった行き当たりばったり行動が好結果をもたらさないという珍妙なシーンが描かれていた。致命的かというとまるっきりそんなことはないその場面こそが今巻の見せ場になっている。積み重ねてきた主人公補正があまりにも強すぎるため、緊迫感をかもし出す演出としてはまだまだぬるい、というかこのあたりが限界なのだろうけど。