辻村深月『ぼくのメジャースプーン』

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

 2006年4月購入。11ヶ月の放置。小学4年生の「ぼく」は不思議な力の持ち主だ。相手に対して「もしAをしなければ、Bという結果が起きる」ということによって、あいてにAまたはBの結果を生じさせることができるのだ。「みんなの前できちんとピアノを弾いて。そうじゃないと一生後悔する」というように。言われた相手は一生後悔したくなければピアノを弾くし、それでもピアノを弾きたくなければ一生後悔することを選択することになる。そんな「ぼく」の通うクラスで事件が起きる。飼っていたうさぎが殺され、そのうさぎ、そして犯人を「ぼく」の幼なじみのふみちゃんが目撃してしまう。ショックで登校拒否をするふみちゃんのために、「ぼく」は犯人と会って力を用いると決意する。しかし、どのような条件を設ければよいのか「ぼく」は悩む……
 基本的に辻村作品のヒロインは「守られるべき存在」である。しかし先行作品がその「守られるべき存在」たる女性自身の視点に立っていたのだが、本書では逆に少女を守る少年の視点で物語が展開する。「守られるべき存在」ということはすなわちかよわい女性ということであり、その存在をダイレクトに描写することで生じるなよなよ感・いじいじ感といったものが鼻につくこともあったのだが、視点の変化によってそういったにおいは軽減されており、感情移入に関してはその点だけはスムーズになったといえる。しかし同じ感情移入という点でもマイナス面もある。主人公の「ぼく」の思考法が少年らしくなく、そういった年齢にそぐわないキャラクター設定の齟齬に違和感を覚えずにはいられず、いかにも作り物めいた人物造形だという冷めた見方をしてしまうところだ。とはいえ全体的によくまとまっており、主人公の能力を活かしたストーリー展開の仕方はうまく、なかなかの良作といえる。