太田忠司『レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿』
レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (カッパ・ノベルス)
- 作者: 太田忠司
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/03/23
- メディア: 新書
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (37件) を見る
作者太田忠司の代表作に「狩野俊介シリーズ」がある。探偵役の俊介少年が事件を通じて関わった大人の汚さに傷つきつつも成長していくというビルドゥングス・ロマンの魅力あふれる好シリーズだ。その「狩野俊介シリーズ」同様、本書の主人公も事件を通して人と関わることで成長していく。もっとも特徴的なのは主人公の雪永鋼が重度のメンヘラである点だ。そもそもミステリの探偵役というものは事件に関わる多くの人物に向き合い、時には心のうちに潜むさまざまな感情を暴くことによって事件を解決するものであり、人とのふれあいを過度に嫌う鋼と言う主人公はミステリの探偵役としてはもっともふさわしくない位置に立つ人物だ。だが、裏を返せばその人と関わることさえ克服すれば主人公は大きく成長するわけで、したがって読者は本書を読むことによってミステリとして通常得られる謎を解き明かし、事件を解決することで得られるすっきり感だけでなく、そういった行為によってもたらされる主人公の人間的成長、心の痛みを克服することから感じ取れる癒しの感情という二つのカタルシスを得ることができる。なかなかの良作といえよう。