小路幸也『空を見上げる古い歌を口ずさむ』

空を見上げる古い歌を口ずさむ (Pulp‐town fiction)

空を見上げる古い歌を口ずさむ (Pulp‐town fiction)

 ある日自分の息子の彰が言う。「みんなの顔がのっぺらぼうに見える」と。それを聞いて凌一は昔兄に言われたことを思い出す。「いつかお前の周りで、誰かが<のっぺらぼう>を見るようになったら呼んでほしい」――すぐに兄を呼び出した凌一たちはとてつもなく奇妙な体験談を聞くことになる……
 現実世界のすぐそばで起きていた異形のものたちの世界をノスタルジックに描いた作品だが、こと郷愁感ということに限って言えば、帯を担当した恩田陸に一日の長がある。また、家族の絆を根底に据えているように見えるがこちらも声高に主張するわけでもない。押し付けがましさはない一方で総じて薄味というのが全体の印象だ。これは意図的にやっていることだと思うが、肝心の彰の心のうちがまったく見えていない部分も、物足りなさを感じさせる一因になっていると思う。