都筑道夫『誘拐作戦』

誘拐作戦 (創元推理文庫)

誘拐作戦 (創元推理文庫)

 2001年8月購入。5年半の放置。雨のなかで倒れている瀕死の女性を拾ったチンピラたち。その女性はすぐに死んでしまうのだが、彼女にそっくりの知り合いの存在に思い当たったチンピラたちはその女性を偽者にしたてて誘拐を演出、身代金をせしめようとするのだが……
 作中に仕掛けられたトリッキーなしかけはいかにも人工的で、本格ミステリに思いいれのない読者からすれば「リアリティに欠ける」と一蹴されかねない。唯一本格原理主義者の視点に立ったときにのみ、その人工性はトリックを成立させるための手段としてその稚気を賞賛することが可能だ。作品世界に入り込むには抵抗を覚えるというのが一般的な反応ではなかろうか。読点過多でリズムに乗り切れない文章もその傾向に拍車をかけているように思う。私個人としてはさほどの本格原理主義者ではないので、本書の趣向を面白いと思いつつももろ手を挙げて歓迎はできなかった。