柳広司『新世界』

新世界 (角川文庫)

新世界 (角川文庫)

 2006年10月購入。4ヶ月の放置。太平洋戦争終結直後の1945年8月、ロスアラモス。町に住む天才科学者たちは原爆開発の成功及びそれを用いる事によって得られた勝利を祝うパーティーを催していた。ところが、宴の夜に一人の男の撲殺死体が発見される。原爆開発責任者のオッペンハイマー博士は友人のイザドア・ラビ事件調査を依頼するのだが……
 あらすじから明らかな通り、本書は歴史ミステリなのだがその歴史のなかでも非常に重いテーマを扱った作品でだ。ミステリ的な仕掛けや解決はとりたてて目を引く箇所はないが、人間の尊厳やモラルといったテーマから生ずる部分はズシリと響く。
 なお、原爆という大量殺戮兵器を造った天才たちがたった一人の人間のちっぽけな死に関わるという展開は、解説における有栖川有栖の言を用いるまでもなく、笠井潔の大量死理論を容易に想起させる。