北森鴻『深淵のガランス』

深淵のガランス

深淵のガランス

 2006年3月購入。10ヶ月の放置。花師を生業としている佐月恭壱にはもうひとつの顔がある。絵画修復師としての恭壱が巻き込まれた二つの事件を描いた中編集。画壇の大家・長谷川宗司の風景画修復の際に発見した、絵画の下に隠されたもうひとつの絵にまつわる事件「深淵のガランス」。雪深き東北で発見された未発見の洞窟壁画の修復のさなか、佐々木兵衛画伯の分割画を求める知人が失踪してしまう「血色夢」。
 作者の代表作でもある「冬狐堂」シリーズや「蓮丈那智」シリーズ同様、古美術がらみの事件を扱った作品で、本書ではそのなかでも絵画、そしてその修復生業とする佐月恭壱を主人公としている。作者の得意とするフィールドだけあって、なかなか読み応えがあり面白い。作中には中華系黒社会につながりを持つ男が登場し、物語に緊張感を与えている。のみならず、その娘は主人公とは恋人関係にもある。ハードボイルド色の強さも北森作品に見られる特徴のひとつであり、こちらもまた深みを与えるという意味でプラスに作用している。まだまだ続編が読みたいシリーズだ。