辻村深月『凍りのくじら』
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/11/08
- メディア: 新書
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辻村深月の3作目。前2作はミステリという枠組みを意識した内容となっていたが、本書ではその枠を取っ払っており、しかもそれによって良作を生み出すことに成功したといえる。もっとも、テーマ的には第1作の「出入り不可能な校舎」、第2作の「夜に遊ぶ子どもたち」と同様「思春期における閉鎖的環境と、その環境からの脱出」を扱っている。タイトルが示すとおり、「氷に閉じ込められた鯨」が主人公の置かれた状況を暗示しているのは明白で、主人公はその冷たく厚い氷の殻を破ることによって成長していく。また、前2作同様少女が主人公の成長物語という体裁をとっている点では、桜庭一樹との類似点も見出せるかもしれない。もっとも、テーマの扱い方においては桜庭が少女という存在に距離をおいているのに対し、辻村はより近距離で見つめている感がある。作者の主人公=少女との年齢差にその原因を求めることは安直過ぎるか。