辻村深月『凍りのくじら』

凍りのくじら (講談社ノベルス)

凍りのくじら (講談社ノベルス)

 2005年11月購入。1年2ヶ月の放置。芦沢理帆子は有名なカメラマン・芦沢光の娘だ。その父が突然失踪してから理帆子は病弱な母と二人暮らしを続ける。そんな理帆子の前に現れた青年・別所あきら。友人はたくさんいるものの、そのことごとくと距離を置きがちな理帆子だが、彼にのみは次第に心を開いていくようになる。そんな中、昔の恋人がストーカーまがいの行為をとるようになり、彼女の生活に不穏な空気が……

 辻村深月の3作目。前2作はミステリという枠組みを意識した内容となっていたが、本書ではその枠を取っ払っており、しかもそれによって良作を生み出すことに成功したといえる。もっとも、テーマ的には第1作の「出入り不可能な校舎」、第2作の「夜に遊ぶ子どもたち」と同様「思春期における閉鎖的環境と、その環境からの脱出」を扱っている。タイトルが示すとおり、「氷に閉じ込められた鯨」が主人公の置かれた状況を暗示しているのは明白で、主人公はその冷たく厚い氷の殻を破ることによって成長していく。また、前2作同様少女が主人公の成長物語という体裁をとっている点では、桜庭一樹との類似点も見出せるかもしれない。もっとも、テーマの扱い方においては桜庭が少女という存在に距離をおいているのに対し、辻村はより近距離で見つめている感がある。作者の主人公=少女との年齢差にその原因を求めることは安直過ぎるか。