小川一水『第六大陸』1・2

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

第六大陸〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

 西暦2025年、エデン・レジャーエンターテイメント社の会長・桃園寺閃之助とその孫の妙は月面に結婚式場「第六大陸」を建設するという壮大なプロジェクトを立ち上げた。桃園寺から依頼を受けた後鳥羽総合建設の青峰走也は妙とともに月を訪れ、そこでの経験を元にプロジェクトを進めていくことになるのだが……

 科学の発展を前提に現実の延長線上に未来を設けるというリアリティ重視の側面と、未知の世界に対する興味や関心といったロマンを重視する視点――SFの魅力は大まかにこの2点が根源にあると思う。そして両者を混合させたのが本書だ。ギリギリつま先だけが現在我々の暮らす現実に接している世界を作り上げ、さらにそれを超越した宇宙に対するロマンも失わない。これらの要素をミックスさせた上で物語を展開させるには微妙なバランス感覚が必要であろう。そして無事に物語を完結させるに値するバランス感覚を、本書は持ちえたか――最後にロマン要素が飛躍したことを除けばその通り持ちえたと思う。したがってこのバランスという点においては非常に残念な作品だ。しかし、そのことを作品の瑕疵と認識したとしても十分に面白い作品に仕上がっていると思う。