若竹七海『心のなかの冷たい何か』

心のなかの冷たい何か (創元推理文庫)

心のなかの冷たい何か (創元推理文庫)

 2005年12月購入。7ヶ月の放置。旅先の列車で隣り合わせになった女性と「友達」となった若竹七海。その女性が自殺を図り、植物状態に。さらにはその女性から七海あてに異様な手記が送られてくる。彼女の自殺に理由、そして手記の意味する真実とは? 七海は彼女の周囲を探り始めるのだが……
 探偵役の女性が捜査の最中に出会った人々から聞かされる不の感情に振り回される、といった展開は後の「葉村晶シリーズ」の雛形であることは明らかであろう。のみならず、人間の心のなかに潜む冷たい何か――悪意とか狂気といったものを描くという意味では、本書の段階で作家若竹七海の作風は確立されているといってもよい。単行本刊行後絶版、入手困難となっていたこの初期の名作が、待望の文庫化で多くの読者の眼に留まることになったのは幸甚の至りである。次はぜひとも『水上音楽堂の冒険』を文庫化してほしいものだ。