殊能将之『キマイラの新しい城』

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

キマイラの新しい城 (講談社ノベルス)

 2004年8月購入。およそ2年の放置。十字軍に従軍した騎士の霊魂が乗り移ったと主張する男。その騎士は何者かに密室で殺されたらしく、犯人探しを「名探偵」石動戯作に依頼する。ところが、当時の事件の謎を探るうちに現実世界でも殺人事件が発生してしまう……
 750年前と現代という二つの密室殺人の謎の解決を迫る名探偵の物語――そう聞けば本格好きはワクワクせずにはいられないところだが、そこは殊能将之。くそまじめに密室講義を繰り広げる名探偵に対する聞き手の一言「要点を早く言え」、そして結論が「犯人はわからない」。挙句に現場を再現するためのコスプレ……本格ミステリに対するにあたって徹底的に斜に構えた態度で臨んでみせる。さすがに『黒い仏』の作者というべきか。個人的には終盤での大活劇がたまらなく面白かった。
 ところで、殊能作品の解決の仕方は各作品のもとネタによって変わってくる。『美濃牛』や『鏡の中は日曜日』など、もとネタがミステリである場合は比較的ミステリ的な着地をするが、本書や『黒い仏』などの場合、そのもとネタに沿ったオチが用意され、ミステリとしてすべてが収束しない。これを踏まえないで読むとミステリとして大きな肩透かしをくってしまうのであるが、いったんもとネタを知ってしまうと思わずにやりとしてしまうこともありうる。そこらへん、要チェック。