梁羽生『七剣下天山 下』

七剣下天山〈下〉 (徳間文庫)

七剣下天山〈下〉 (徳間文庫)

 清軍の西域侵攻を阻むべき戦いを繰り広げる凌未風ら江湖の英雄たちの奮闘を描く下巻。上巻同様、テンポのよい戦闘描写は圧巻。また、登場人物それぞれの過去の因縁を丁寧に描くことでキャラクターの人物像が深みが与えられている。さらに、具体的には描かれないものの、作中に登場する剣法の数々――「飛鳥掠林」とか「白虹貫日」とか「乗龍引鳳」といったネーミングからは漢字という表意文字のイメージ喚起力のすさまじさを感じさせてくれる。そういったキャラクターたちによるバトルの連続の背景には清初の歴史がすえられており、読了後はおなかいっぱい。やはり武侠は面白い。


 追記:本書は「天山系列」と呼ばれるシリーズの1作ということで、『白髪魔女伝』『塞外奇侠伝』など前日譚に当たる作品が他にもあるらしい。これらも翻訳出版してほしいものだが今のところそのような予定はないようだ。思えば10年以上前、やはり徳間の中国もので『叛旗 小説李自成、*1』という李自成を主人公にした作品が出版されたが、これも1作のみで続巻が刊行されることはなかった。梁羽生作品がこれの二の舞にならないことを切に祈る。