田中芳樹『キング・コング』

キング・コング

キング・コング

 田中芳樹の新刊はなぜかキング・コング。他にもっと書くものもあるだろうと思いつつも、読んでしまった。時代背景を綿密に調べ、それを作中にさりげなく取り込む手法は中国ものに限らず例えば『バルト海の復讐』や『アップフェルラント物語』などでも存分に発揮してきたもので、本作でもそこらへんは巧い。舞台となった1993年で起きた主要事件のみならず「エラリー・クイーンとバナービー・ロスが同一人物と知られたなかった」ことや「KKK(クー・クラックス・クラン)が400万から4000人に減った」とか、雑学の部類に入るが思わず読者が興味を抱いてしまうようなネタを不自然じゃないレベルで作中に組み込んでくるのだから。
 「自然界の代表キング・コング」VS「科学技術の発達した文明による兵器」の対決の構図になって結果後者の勝利になることは仕方のないことかもしれないが、その後の愛情を絡めた処理は王道といえば王道なんだろうけど、いささか安直というか陳腐というか。それでも田中芳樹らしさを見せた台詞回しなどもあるのでそのへんはOKなのだが。