浅田次郎『珍妃の井戸』

珍妃の井戸 (講談社文庫)

珍妃の井戸 (講談社文庫)

 2005年4月購入。半年の放置。大ヒット作『蒼穹の昴』の続編である本書は、義和団事件のさなかに殺された光緒帝の愛妾である珍妃の殺害事件をめぐる物語である。
 イギリス人ソールズベリー、ドイツ人シュミット、ロシア人ペトロヴィッチ、そして日本人松平忠永の4人が事件の関係者から真相を聞き出そうとするが、事件の様相は証言者によって著しく異なった。はたして珍妃を殺したのは誰なのか?

 ――と、こう書くと歴史もののフーダニットと思われるかもしれないが、決してそう読んではいけない。ミステリ者が普段ミステリを読むような感覚で読むと落胆すること必至である。
 ただし、いつもの浅田次郎の人情者としてはまずまずの作品。歴史の大きな流れの中で個人の小さな愛をいつもの浅田節で描いているのだから。

 個人的には傑作といわれる『蒼穹の昴』にそれほどのめりこめなかった以上、続編たる本書も――ミステリ読みとしてのバイアスをはずしたとしても――いまひとつ作品世界にひたれなかった。いや、相変わらず泣かせるのだけど浅田の他作品と比較した上での評価だが。